本文へスキップ

文字入力装置、言語分析、教育ソフトの有限会社未来樹

TEL. 075-935-****

〒601-0000 京都市南区

言語表現と教育効果日本語

 昔から言語に興味があり色々と調べておりました。大学の卒業論文が、『言語表現と教育効果』。言葉を工夫することで教育力をアップできる云々と言った内容でした。当時の青臭い論文を披露するほど神経は図太くないのですが、今も方向性は全くぶれずにいます。

塾のコマーシャル

 数年前の大手塾のコマーシャルにこんなのがありました。

 「日本ではこうなっているところが・・・」とナレーションが入り

   5+3=
   6+2=
    ~

 など、簡単な算数の式が紹介され

「イギリスではこうなっている・・・」

   7=□+□
   6=□+□
    ~
 「ちょっとおもしろいでしょ・・・」

 と、まあこんな感じのCMだったと思います。ちょっとどころじゃない、すごくおもしろいです。

英語で足し算は難しい

 では、英語で足し算はどう表現するのでしょうか?

 5+2= 7

 英語で読むと "5 plus 2 is 7." または "5 plus 2 equals 7."ですが、英語を母語とする人たちはこれをまともな文章とは思わないようです。

 5・6才といえば初等教育が始まり、子供たちにきれいな言葉に接してもらいたい年代です。ところが算数で上記のようなおかしな文を教えるとなればちょっとしたジレンマです。

 そこで、きれいな文章で子供に教えようとすると "2 added to 5 makes 7."のようになるようです。直訳すると「2を足した5は7を作る」でしょうか? 2と5の順番が変わるのでビックリですが、引き算で "5 - 2 =3 "の計算を「2 substraction from 5」と説明しますので、add to も数字の順を逆にして引き算の学習にそろえるようです。

  他に ”Add 5 and 2 and you have 7” 等も辞書を調べると出てきました。直訳すると「足せ! 5 と 2を、そしてあなたは7を得る」でしょうか?これは数字の順番はそのままですが、命令文にしたために Add が前に出ています。

 英語は語順の決まりに厳密な言語ですから、そのままの順で読むと"5 plus 2 is 7."のように変な文になる。そこで、何とかうまく数式と説明の両方を一致させられないか?そこで上のように数字を逆並びにしたり、命令形にしたりと工夫するわけです。そして、初めて算数を習う子供達にもっと良い方法は無いかと考えられた方法が先の 7=□+□ です。

 教え方としては、先生が「最初の□に好きな数字を入れてごらん」と聞いて、生徒が2と答えると、一つ目の□に2を書き入れ、生徒に向かって「7 is 2」といいます。ここで少し区切って、

「and ・3・4・5・6・7」と、3から指折り数えて7まで言うのでしょう。

「7」と数えるときに指は5本折られてますから、後ろの□に5を記入して完了です。

 これで「7 is 2 and 5」を学びます。英語圏の人はおつりの計算もこのようにカウントアップで計算します。例えば 1000円で 750円の物を購入したときは、最初に 750円の品物を渡し、続いて順に小銭を順に渡して、合計1000円にする。1000= 750+小銭 のように考えるわけです。

 「7 is 2 and 5」の方法に慣れたら = の前後を逆転させて 「5 plus 2 is 7」 を学びます。この時点で言葉(英語)からはなれることになります。次に繰り上がりを学ぶのですが。これがCMに出てきた学習法の手順です。

日本語の四則計算は大変便利

 その点、日本語は四則計算に限れば、算数と非常に良くリンクしています。

  式      読み方    説明の仕方
 3+5=8  3足す5は8  3と(に)5を足すと8になる
 9-4=5  9引く4は5  9から4を引くと5になる。
 3✕2=6  3掛ける2は6 3と(に)2を掛けると6になる
 8÷4=2  8割る4は2  8を4で割ると2になる

 以上、四則演算を並べてみました。見たまんま。読めば終わりですね。

日本語は曖昧か?

 たぶんこれを読んでいるあなたも日本語が母語ですね。だったら、1000円ぐらいの買い物なら、おつりの計算は暗算でできるのではないですか?日本人にとってこれは当たり前のことです。ただ、これがすばらしいことだとほとんどの日本人が知りません。逆に言うとなぜ英語圏の人がおつりの計算を苦手とするのか分かっていないのです。

 先のCMもそうです。欧米で日本と違うことをやっている。それだけで先進的で優れたものだといわんばかりです。でもそうじゃないわけです。英語は算数向きじゃない言語なのです。どこに欠点があるかを突き詰めると、「文中に『主語』が必須」という制限事項にあることが分かります。

 英語とは違い、日本語は主語が曖昧でもかまいません。例えば『3+5』 これを『3足す5』と読みますが、この足すの主語は何か?私が足すのか、あなたが足すのか?それも神なのか? 「足す」の主語が曖昧のまま誰も疑問を抱かず「3+5=8」と計算が進む。しかし英語はこれを許さない。常に主語は明快で無ければならない決まりです。そこで、語順を変えて数字の3を主語にしたり、あるいは命令形の文にして主語を省くなど、表現に工夫を凝らす。足し算が初めての子供に教えるときは 7=□+□ にする。数式側を英語に近づけるわけです。

 しばしば日本語が主語を曖昧にすることをさして、曖昧だと批判する人がいますが、そうじゃない、主語が不要というのは欠点じゃ無いんです。元々3+5に主語なんて要らない。実は世の中には主語が決められないことが山ほど有ります。英語でも天候や時、距離、寒暑を it で表しますが、これらは主語が決められない事象です。これに加えて、四則計算も主語が無い方がむしろ正しいです。だから、日本語は主語が曖昧だと言うのでは無く、「日本語は主語を定めにくい文、例えば四則計算、を簡単に表現できる優れた特徴をもつ言語だ」と言うべきなのです。

英語は駄目なのか?

 ただ、優れているとはいってもそれは英語圏の算数に比べてのこと。中学1年生の数学で -3+5 など負の数が出てきますが、たったこれだけで日本語英語と同様でお手上げになります。「-3+5」は「マイナス3足す5」と読み方まで「マイナス」と「足す」が混じった中途半端な文になってしまいます。この説明は長くなるのでやめますが、英語圏では「minus 3 plus 5」とすっかり数学の読み方に変わります。plus や minus は英単語だけれど、説明のための言葉ではなく、記号としての言葉に変わるのです。どちらも耳で聞いて分かる範囲を超えるなら、日本語よりも英語の方がましです。

言葉を練る

 では日本語が優れている範囲はどこまでか、その優れている部分はどこから来たのかを調べると、結局江戸時代の寺子屋で教えられていた「読み・書き・そろばん」この「そろばん」にたどり着きます。

 そろばんも四則計算も中国から入って来ました。しかし、中国では四則計算は加減乗除といい、足し算は「3+5=8」を 「三 加 五 等于 八」と表現します。「加」が「足す」に変わっている。なぜそのまま「加える」にしなかったのか?

 答えはそろばんの読み上げ算でしょう。江戸時代は長らく平和が続き、商業が大きく発展しました。商家では一日の終わりに主人が大福帳(帳簿)を読み上げ、複数の人間がそろばんで売り上げを計算しています。少しの間違いも許されませんから、聞き間違いがなく、能率の良い読み方が選ばれます。

 例えば1と7、本来「イチ」「シチ」が正しい音読みですが、聞き間違えやすい。そこで商家では7を「ななつ」の訓読みを採って「なな」と読み、「イチ」と「なな」にする。

 「加」も直訳して「加える」とせずに「足す」に替えた。なぜかというと、まず第一に「加える」は読みが長いです。次に加えるは『料理に油を加える』のように別種の物を加えるときに使います。ところが「油を足す」だと前にも油を入れた、しかし不足しているので、もう一度油を足す意味になります。どちらが「+」にふさわしいかといえば「足す」で間違いないでしょう。

 このように四則演算で使う言葉は一語一語が練りに練られて現代に至っています。紹介しませんが、文法面の工夫(語順・助動詞の選択など)も半端ではありません。

 残念なのは工夫があるのは江戸時代までであることです。明治以降はその工夫が不足しています。中学の数学も例えば負の数の扱い方のように、扱いに統一性を欠き、雑な印象を持ちます。たぶん明治時代に入ると、欧米からの知識が急激に流入して、それを翻訳するのに手一杯だったのでしょう。そのため言葉を練る間がないままに定着し、現代に至っています。

 これは非常に残念なことです。日本語は無理に主語を設定する必要がない、自然科学に向いた言語です。現状に甘んずることなく単語や文法を工夫すれば、子供たちが努力せずとも数学や科学の理解が高まります。

 このサイトでは「言葉を練ることで日本人全体の知力を高める」そんな話題を皆さんに提供したいと考えています。

バナースペース

有限会社 未 来 樹

〒601-0000
京都市南区

TEL 075-935-****
FAX 075-935-****

文字入力装置、言語分析、教育ソフトの有限会社未来樹