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言語表現と教育効果日本語

言葉のつくりかた

 「電池が切れる」っていいますよね。もちろんこれはスパッと切れるわけではありません。電池を寿命まで使い切って、電気を取り出すことができなくなったことを表す言葉です。同じ意味で「バッテリーが上がる」ともいいます。そもそも電池とはうまい表現で、電気をためる池のようなものだから「電池」です。電池(バッテリー)が無くなるのを「上がる」というのは「池が干上がる」の略でしょう。また、「電池が無くなる」ともいいます。
 このように、電池に関して、全く同じ内容のことを「切れる・無くなる・上がる」の3つの言葉があるわけです。

電池が切れる

 さて、ここからがこのページの本題です。
 私は皆さんに、新しい言葉をつくっていただきたいと考えています。まず、最初の課題は「電池が○○」の「○○」に入る言葉を考えていただきます。最初にいっておきますこれは知的なゲームです。最初ですから、この例は一緒に考えてみましょう。後で、「電池」以外の例も用意します。これは皆さんで考えていただくとして、まず「電池が○○」でやり方を体験して下さい。

完全な理解

 まず、最初のステップは、「電池が切れる」とはどういうことか、その内容を正確に把握することです。そして、それを他の人に説明できるくらいになって下さい。できれば幼稚園ぐらいの小さい子供に説明するつもりで、易しい言葉を使って下さい。こんな感じです。

子 供「ねえ。ロボット動かなくなっちゃった」
あなた「電池が切れたんだね。」
子 供「電池が切れるってどういうこと?」

 さて、この続きをやってみましょう。

あなた「電池が無くなったんだ。」
子 供「電池ついてるよ」
あなた「電池はあるけど中の電気がなくなっちゃったんだよ」
子 供「電気って何?」

 スタートはこんな感じですね。子供でも納得できるように続けて説明して下さい。たとえを使ったり絵を描いたりしてもいいですよ。

あなた「電池が切れたから切れたんだ。ごちゃごちゃ言うな!」

 あなたが切れちゃ駄目ですよ。落ち着いてしっかり説明して下さい。

あなた「雷も電気でできているよ。ピカッと光ってゴロゴロ鳴るでしょ。ロボットも音を出したり、光ったり動いたりする。これが電気の力。電池の中には雷と同じ電気がつまってるんだよ。でも、電気が全部出ちゃうと空っぽになってロボットも動かなくなるんだよ。」
子 供「へえ、電池の中に雷が入っているの?」
あなた「そうだよ。雷も電気なんだよ。それが無くなっちゃったんだよ」
子 供「もうないの?」
あなた「そう、電気が無くなったらロボットも動かないんだよ」
子 供「電気が無いの?」
あなた「そうだね。電池は空っぽになっちゃったんだよ。」
子 供「からっぽ?」
あなた「そう、君もおなかがぺこぺこになったら動けないでしょ」
子 供「ロボット、おなかぺこぺこなの」
あなた「そうだよ。ロボットは電気が無いと、おなかぺこぺこで動けないんだ。」

 もちろん本当の幼稚園児はなかなか手強いですから簡単には納得してくれません。自問自答で、何度も繰り返して下さい。自己満足でもかまいません。

表現の長所と短所

 そこで、第2のステップは既存の言葉、「切れる」「無くなる」「上がる」、の特徴を把握することです。特に短所になる部分をよく見て下さい。

 まず、「無くなる」は電池そのものが無くなってしまうように聞こえる。次に「上がる」は「電池が干上がる」は車載用のバッテリーに見られる水を使うものならぴったりの言葉かもしれませんが、乾電池に「干上がる」では元々「乾いた電池」ですので、ぴったりな言葉とはいえません。最後に「切れる」は「使い切る」から来た言葉でしょうが、これも多義に使われる言葉です。このページで電池を話題に選んだのも、電気屋で「単二(電池)は切らしております。」と言われたのがきっかけです。紛らわしいですね。

 できれば、この3つを比較して下さい。あなたはこの3つの中で、どれが一番良いと思いましたか?私は「切れる」が一番ましだと思いましたがどうでしょうか?もちろん答えはありません。英語では「電池が死ぬ(a dead battery )」と表現しますし、どれが正しいとか全くないのです。考えることが大事なのです。

言葉探し

 さて、第3のステップで言葉をさがしに入ります。まず、今使っている「切れる・無くなる・上がる」などの類義語から始めると良いでしょう。私が思いついた言葉を列挙してみます。

 絶つ、終わる、死ぬ、往く、つぶれる、消える、止まる、乾く、よどむ、倒れる、伏す、
 古びる、尽きる、亡ぶ、弱る、老いる、・・・。
 上の幼稚園児への説明であった「空っぽになる」や「ぺこぺこ」も入れましょう。

 出にくい場合は紙に書いてじっくり考えて下さい。意味は広めにどんどん言葉を追加してみます。もちろんこれも長所短所を考え、駄目な言葉はさっと消します。「電池が絶つ」「・・・消える」「・・・倒れる」などは紛らわしいのですぐに抹消ですね。「・・・弱る」は「電池が切れる」直前の状態として使いますので使えません。「電池が尽きる」はどうですか?なかなかいい感じだと思いませんか。

主語と述語のつながり

 さて、このあたりまでくると、「何かスッキリしない。もやもやした気持ちがして言葉が出てこない。」と訴える人が出てきます。
 ちょっと脱線しますが、そんな人のためにその理由を説明します。どんどん言葉が出てくる人は「反対語」まで、読み飛ばして下さい。

  さて、ここで知っておいて欲しいことは言葉のつながり方についてです。

 「電池が切れる」を例にすると、これは「電池(に蓄えた電気を流していたが、その電気の流れ)が切れる」の( )の中が省略された表現です。ですから、本来は「(流れ)が」が主語で「切れる」がその述語になります。

 「電池が無くなる」は「電池(の中に蓄えられた電気)が無くなる」の( )が省略された文です。つまり、「無くなる」の本来の主語は「電気」であって、「電池」ではありません。

 次に「電池が上がる」は比喩型で、「電池(の中の電気を池の中の水にたとえて、その水が干)上がる」ですから「(干)上がる」の本来の主語は「水が」になります。

対応関係の崩れ

 さて、このように省略や比喩を使うと、厳密な意味での主語・述語の対応関係が崩れてしまいます。もちろんこれは主語・述語の関係だけではありませんし、日本語特有のものでもありません。

 例えば英語では「battery is dead(電池が死ぬ)」と表現しますが、これは比喩の中でも擬人法と呼ばれる方法です。

 このページでは「言葉を作る」のがテーマなのですが、これを苦手とする人は、たいていこの崩れを嫌っているのです。

花が咲く

 わかりやすい例をあげれば、「降る」という動詞があります。この動詞は「雨が」という規定の主語を持ちます。「雨が降る」がワンセットと考えれば良いでしょう。数は多くありませんが他にも「花が咲く」「風が吹く」等があります。これらは主語・述語のセットですが、「魚を釣る」のように目的語・述語のセットもあります。

 なかなか言葉が浮かばないという人は「電池が××」を「雨が降る」のような1対1のすっきりした関係の語を探していることが多い。しかし、それは絶対に不可能なことです。もしもそれがあるならとっくに使っていまし、これらは例外的な言葉だからです。

 それによく考えて下さい。文章上手な人は「花が咲きました」とは書きません。良い文章は簡潔な表現が原則です。ところが「咲く」という言葉はそれだけで「花」の意味が連想されるので「花が咲く」と並べてしまうとくどいです。「チューリップの花が咲きました。」と書いたらどうでしょう。これは小学校の低学年レベルです。

 実際には「○○公園では花が見ごろを迎え・・・」のような表現にし、わざと対応関係を崩す工夫します。理科や数学の世界なら、一部のすきも無い論理構成をしなければいけないでしょうが、国語の勉強は逆です。上手な省略、二重の意味(しゃれ)、気の利いた比喩(擬人表現)などを楽しむことが大切です。

 もちろん新しい言葉をつくるときも同じです。きちんとした対応などしなくていい。むしろ意味をよく知った上で、主語・述語の関係を上手に崩さないといけません。

大喜利

 落語家さんは言葉の崩し方が大変上手で、笑点の「大喜利」などは非常に参考になります。ちょっとやってみましょうか。
「『電池が切れました』これを色で表して下さい。」
「電池が真っ白です。」「そのこころは」「すっかり燃え尽きました。」
「電池が赤です。」「そのこころは」「赤は止まれ!」
 座布団はもらえそうにありませんが、この章の最初に「言葉をつくるのは知的なゲームです」といった意味はわかっていただけたのではないでしょうか。

言葉と智恵

 上記の3ステップで、新しい言葉をどんどん生み出してゆくことを説明しました。次のページでは生み出した言葉を評価し、取捨選択する方法について考えます。

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